むりかぶし望遠鏡でスターリンク衛星の黒い塗装の効果を実証

 石垣島天文台のむりかぶし望遠鏡/MITSuMEの3色同時撮影によってスターリンク衛星の観測的な影響を詳細に調査しました. スターリンク衛星には表面に黒色塗装を施したダークサット(STARLINK-1130)と呼ばれる衛星があり, 黒色塗装によって太陽光の反射量が通常のスターリンク衛星の半分程度に抑えられていることなどを実証しました.

図1 通常のスターリンク衛星(右)とダークサット(左)の模式図 (©︎ SpaceX).

 アメリカ合衆国のスペースX社※1は高性能かつ低コストな衛星インターネットサービスの提供を目的に, 2019年5月に60機の衛星(スターリンク衛星※2)を打ち上げました. 2020年代中頃までには総計約42,000機の運用を予定しています. これらの衛星は上空約550 kmの高度で地球を周回し反射太陽光によって天体観測や景観に影響を及ぼすことから, 国際天文学連合(IAU)や国立天文台などの世界の天文台はこの影響を懸念する声明を発表しました. これを受けてスペースX社は表面に黒色塗装を施したダークサット※3 (STARLINK-1130)を試験機として2020年1月に打ち上げ, 世界の研究機関でダークサットや通常のスターリンク衛星の明るさ(等級)の調査が行われるようになりました. 例えば g’バンドフィルター(緑色)では約7.5等級※4 (ダークサット), 6.6等級※4(通常の衛星, STARLINK-1113)であり, いずれも観測的影響は無視できないという報告がなされています※5. しかしながら, 多色で同時にこれらスターリンク衛星の影響を調査した研究報告はなく, ダークサットの黒色塗装による具体的な効果については詳細な検証がされていませんでした.

 今回, 国立天文台(石垣島天文台)の堀内 貴史 特任研究員を中心とした, 国立天文台(石垣島天文台)の花山 秀和 特任研究員, 国立天文台(周波数資源保護室)の大石 雅寿 特任教授による研究チームは, 石垣島天文台の運用する九州・沖縄地方最大の光学望遠鏡, 105cmむりかぶし望遠鏡/MITSuMEを用いたダークサット及びSTARLINK-1113の飛跡(図2)を3色同時撮影(g’バンド: 緑, Rcバンド: 赤, Icバンド: 近赤外)により観測しました. この3色同時撮影は, 異なる色の情報を同じ条件(衛星高度, 速度など)で取得できる, つまりより詳細に観測された明るさを評価できるというメリットがあります. 観測は4~6月の間に計4回(ダークサット: 3回, STARLINK-1113: 1回)実施しました. 観測の結果ダークサット, STARLINK-1113ともに, 長波長(色が赤に近づく)ほど明るくなる傾向にあることを確認しました. また, 衛星の3色の明るさに太陽光の熱放射及び反射モデルを適用したところ, ダークサットの表面の反射率はSTARTLINK-1113の約半分であり, ダークサットの表面塗装の効果が有効であることを詳細に実証しました.

 この研究結果は2020年12月7日に, Horiuchi T. et al. “Simultaneous Multicolor Observations of Starlink’s Darksat by The Murikabushi Telescope with MITSuMEとして, 米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載されました.

※1 スペースXはスペース・エクスプロージョン・テクノロジーズの通称で, 宇宙輸送(ロケットや宇宙船の開発など)を業務としている会社です.

※2 スペースX社が開発した衛星で, 多数の人工衛星の一群(衛星コンステレーション)をなすことがあります.

※3 衛星表面に黒色塗装を施すことで反射太陽光を低減させ, 観測や景観への影響を減らすことを目的に開発されました.

※4 天体の等級はその値が大きくなる程暗くなり, 人間の目は約6等の天体までなら認識可能です.

※5 Tregloan-Reed et al. (2020)を参照.

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