クェーサーの明るさと中心からの噴出ガスの変動との間の密接な関係を解明

 クェーサーからの噴出ガス(アウトフロー)がクェーサーの明るさの時間変化(光度変動)によって変動すること, また, その変動の大きさや頻度がクェーサーの性質と密接に関係していることなどを突き止めました.

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 クェーサーからの強力な放射によって外部へ噴出するアウトフロー(青白いモヤモヤで表現された部分)のイメージ. ジェットは中心の大質量ブラックホール周辺のガスの一部が細く絞られて噴出する, アウトフローとは異なる要素(クレジット: 信州大学, 国立天文台).

 活動銀河中心核の一種であるクェーサーは, 宇宙最大規模の明るさを誇るパワフルな天体です. 銀河の中心に太陽の質量の1億から10億倍程度の大質量ブラックホールを有し, その周りにガス円盤(降着円盤)を形成していると考えられています. 降着円盤からの強力な放射によって秒速数千から1万km程で噴出するガス流をアウトフローと呼びます. アウトフローは自身が所属する銀河以外にも, 周辺の銀河間空間(銀河と銀河の間のガス密度が低い領域)にも散布され, 噴出する近傍だけでなくはるか遠方領域の進化にまで影響を与えます. アウトフローはクェーサーのスペクトル上に吸収線として検出されます. 数日から数年の期間で吸収線の形や深さが変動することが知られていますが, その変動が何に起因するかは詳しく解明されていませんでした.

 今回, 国立天文台(石垣島天文台)の堀内 貴史 特任研究員を中心とした, 東京大学の諸隈 智貴 助教, 信州大学の三澤 透 教授, 国立天文台(石垣島天文台)の花山 秀和 特任研究員, 尾道市立大学の川口 俊宏 准教授らによる研究チームは, SDSS-RM Project※1 で取得されたクェーサー25天体の分光データ, iPTF※1 およびPan-STARRS※1 の測光データを用いて, 数日から数年の幅広い期間を対象に吸収強度の変動とクェーサーの光度変動との統計的な関連を探りました. その結果, 様々な時間スケールで両者が互いに相関(同期)していることを確認しました. また, ブラックホール質量が大きいほど, エディントン比※2 が小さく, 降着円盤の温度が低いほど吸収強度は変動しやすいことを確認しました. この結果はクェーサー固有の性質が吸収強度の変動のしやすさを左右する可能性が高いことを示しています.

 本結果はアウトフローがクェーサーの光度変動に影響を受け, なおかつアウトフロー の振る舞いとクェーサーの性質が密接に関連しているという新たな知見を与えるものです.

 この研究結果は, Horiuchi. T. et al. “A Comparison of Properties of Quasars with and without Rapid Broad Absorption Line Variability” として, 米国の天文学専門誌『アストロノミカル・ジャーナル』の2020年5月号に掲載されました.

※1 3つの異なる天体観測プロジェクトSloan Digital Sky Survey Reverberation Mapping (SDSS-RM, 場所: 米国ニューメキシコ州 アパッチポイント天文台, 望遠鏡口径: 2.5m), Intermediate Palomar Transient Factory(iPTF, 場所: 米国カリフォルニア州 パロマー天文台, 望遠鏡口径: 1.2m), Panoramic Survey Telescope and Rapid Response System(Pan-STARRS; パンスターズ, 場所: 米国ハワイ州 ハレアカラ天文台, 望遠鏡口径: 1.8m)の略称

※2 放射による圧力と系の重力が釣り合う時の最大光度と天体自身の光度との比率

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