NASAアルテミスII の“1枚の写真”から太陽周囲の構造を読み解くことに成功

石垣島天文台の有松亘室長(国立天文台・講師)は、東京都市大学理工学部 自然科学科の津村耕司准教授を筆頭著者とする共同研究として、米航空宇宙局(NASA)主導の有人月探査アルテミス計画の第Ⅱ期であるアルテミスIIにおいて、月を周回しながら最接近するフライバイミッション中に撮影された日食画像を解析しました。その結果、太陽の周囲を覆うコロナの一成分であるFコロナ、すなわち太陽系内の微細な塵(ダスト)による散乱光の広がりと構造を明らかにすることに成功しました。本研究は、宇宙飛行士が市販カメラで撮影した、科学観測用ではないたった1枚のJPEG画像、すなわち広報用に公開された一般的なデジタルカメラ画像から、太陽系内の塵の空間構造を解明した画期的なものであり。今回の成果は、研究目的で取得されたデータでなくても、人類の宇宙探査活動そのものが新たな天文観測の機会となり得ることを示した重要な成果となります。
本研究成果に基づく学術論文は、2026年6月9日に、米天文学会の論文誌The Astrophysical Journal Lettersに掲載されました。

図1: アルテミスIIのクルーが月フライバイ中にオリオン宇宙船から撮影した皆既日食の画像。本研究はこの広報用に撮影された画像を解析することで、画像で隠されている太陽のすぐ近くに広がるFコロナ(月の周囲に淡く広がる白い光)の詳細な研究に成功した。(クレジット: NASA)

<本研究のポイント>

  1. • 宇宙飛行士が市販のデジタルカメラで撮影した日食時の広報画像を使用。宇宙探査で取得された一般画像の科学利用という新しい可能性を提示。
  2. • 月を天然の遮光板として利用し、太陽近傍の淡く広がる散乱光を解析。太陽近傍の惑星間塵(ダスト)の分布を推定。
  3. • 東西方向の惑星間塵の構造は従来の観測と整合しつつ、南北方向には新たな惑星間塵の広がりを発見。

<研究成果の概要>

 米航空宇宙局(NASA)主導のアルテミス計画は、人類にとってアポロ計画以来50年ぶりの有人月探査計画です。その中で最初の有人飛行ミッションであるアルテミスIIでは、4名の宇宙飛行士が乗り込んだオリオン宇宙船が2026年4月1日に打ち上げられ、月を周回して地球に4月11日に帰還しました。オリオン宇宙船が月の裏側を飛行中の4月6日には、オリオン宇宙船は月の影の中を飛行し、この時に宇宙飛行士たちは市販のデジタルカメラを使用し、オリオン宇宙船から見て月が太陽を完全に隠す皆既日食の写真撮影に成功しました(図1)。我々はNASAが広報目的で即時公開したこの画像に着目し、独自に解析を実施しました。
 この日食画像には、太陽を隠す月の周囲に、Fコロナと呼ばれる淡く広がる構造が写っています。これは太陽系内を漂う細かい塵(惑星間塵)が太陽光を反射したものであるため、Fコロナの観測から太陽周辺の惑星間塵の分布を観測的に探ることが可能です。Fコロナは太陽本体と比べると非常に淡いため、正確な観測は非常に困難でした。我々は、月を天然の遮光板として利用することで、太陽近傍の淡く広がるFコロナの研究ができるのではないかと考えたのです。我々は月が太陽を隠しているタイミングで得られた公開画像を詳細に解析することで、Fコロナが黄道面に沿ってやや扁平な構造を持ち、東西方向の分布は従来の観測と概ね一致する一方、南北方向には従来の惑星間塵の分布モデルから予想されるよりも広がりを持っていることを解明しました(図2)。この結果は、太陽近傍における惑星間塵の分布をより詳細に制約するものであり、太陽系内物質の起源や進化を理解する上で重要な手がかりとなります。
 本研究は、「宇宙で人が撮った1枚の写真」から宇宙の構造を明らかにしたという点で、科学と人類活動の新しい接点を示す成果です。宇宙探査の現場で得られる一つひとつのデータが、今後の天文学の発展に重要な役割を果たす可能性を示しています。

図2: (左)アルテミスIIクルーが撮影した皆既日食の画像から得られた、Fコロナの広がり。(右)従来の惑星間塵の分布モデルから予想されるFコロナの広がり。観測されたFコロナが、モデル予想よりも南北方向(画像内での左下-右上方向)に広がっていることがわかる。(Tsumura & Arimatsu, 2026より改変)

<用語解説>

  • アルテミス計画:NASA主導の有人月探査計画。アポロ計画以来約50年ぶりに人類を月へ送り、将来的な持続的月面活動を目指す。最初のアルテミスIでは、2022年11月にオリオン宇宙船とSLSロケットの無人飛行試験を実施した。それに続く今回のアルテミスIIでは、アポロ計画以来約50年ぶりの有人月探査として、2026年4月1日に打ち上げられ、月を周回して地球に4月11日に帰還した。今後、2027年ごろのアルテミスIIIによる地球周回軌道での試験を経て、2028年以降に計画されているアルテミスIV以降ではいよいよ有人月着陸が計画されている。
  • Fコロナ:太陽の周辺に淡く広がる構造は『コロナ』と総称され、皆既日食の際に観測されることで知られている。可視光で観測されるコロナに関しては、Kコロナ、Fコロナなど、複数の成分から構成される。本研究で解析したFコロナは、太陽系内に存在する微細な塵(惑星間塵)が太陽光を散乱することによって生じる光であり、主要な惑星の軌道面である黄道面付近に分布する惑星間塵によって生じ、地上からは夜明け前や日没後の空に淡い光として見える『黄道光』の最も太陽側に近い成分とされている。Fコロナの構造を観測することは、太陽近傍の惑星間塵の分布、太陽系内の物質循環を調べる手がかりとなるが、常に太陽の近傍に位置しているため、正確な観測は困難であった。

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